大阪朝鮮学園補助金裁判(11)

6 争点4(A府要綱交付対象要件充足の有無)について
(1) 原告のA府要綱2条該当性について
ア(ア) 原告が本件A府申請をした平成24年3月9日時点において、既にA府要綱は同月7日付け改正により4要件が付加されていた(前記前提事実(2)イ、ウ)のであるから、本件A府申請は同改正後のA府要綱を前提としてされたものということができる。
(イ) 被告A府においては、原告による本件A府申請を受けてA府要綱2条に定める交付要件に該当するか審査していたところ、公安調査庁が平成24年1月において取りまとめた「内外情勢の回顧と展望」にはKに関する記述がある上、平成22年1月に取りまとめた「内外情勢の回顧と展望」にはKがB学園において思想教育を行っている旨の記述があり(上記認定事実(2)ア(イ))、従前から、Kが原告を含むB学園に対して指示等をする関係にあるなどと報道されていた(上記認定事実(2)ア(ア)、エ、(3)ケ、ス)。そして、平成24年3月16日には本件新聞報道がされ、「Kの幹部会議では…B学校校長が先頭に立って…宣誓した」など、KとB学校とのつながりをうかがわせる記述もみられたことからすると(上記認定事実(4)ア)、被告A府において、原告が運営するD・E級学校の生徒らが学校の教育活動として、Kの主催の下にYに参加したのではないかと疑うに足りる状況が生じていたことは否定できないといえる。
他方、被告A府においては、本件新聞報道の内容の真偽等を確認するために原告側のZに説明を求め、Zから口頭による説明(その内容は、上記認定事実(4)ア?から?までのとおりであって、B大学校の教員らで構成される委員会からの依頼により参加者を取りまとめるが、学校行事ではなく、生徒らが任意に参加するものであることなど。)を受けているものの、行事の主催者が確認できる参加者募集のチラシなど生徒に対する案内文書等の提出を求めた際にはZによりその提出を拒絶された上、さらに、同書面等の提出がない場合には本件23年度A府補助金が交付されない可能性がある旨を伝えるなどしたにもかかわらず、Zからは本件A府補助金の交付要件に反する事情はない旨の説明を受けるのみで同案内文書等の提出を受けることができなかった(上記認定事実(4)ア、イ)というのであるから、原告が運営するD・E級学校の生徒らが学校の教育活動として、Kの主催の下にYに参加したことが疑われる状況の中、A府要綱2条の交付対象要件該当性についての検討をしなければならない被告A府の担当者において、その疑われるべき状況を解消することができたとは到底いえない(むしろZの上記対応に照らせば、その疑われる状況が固定化したということができる。)。加えて、Zは、同案内文書等を提出する必要はないと説明はするものの、同案内文書等が存在しないという趣旨の説明はしていないし(上記認定事実(4)ア、イ)、原告が運営する学校からも生徒十数名がYに参加し、生徒らはこれに参加することを憧れの舞台への参加として受け止めていたこと(証人A’)に加え、Yからわずか2か月程度しか経過していなかったことからすると、同案内文書等が全て散逸、滅失したとも考え難いところであって、Zが同案内文書等を被告A府に提出することができない合理的理由があったとは認められない。

上記案内文書等は本訴においても書証として提出されておらず、被告A府職員による繰り返しの案内文書等の提出要請にもかかわらず、提出を求められていた資料(案内文書等)を提出しないことに合理的理由があったとは解されないから、原告が運営するD・E級学校の生徒らが学校の教育活動として、Kの主催の下にYに参加したものと疑われ、少なくとも「直近の「内外情勢の回顧と展望」において調査等の対象となっている団体」が「主催する行事に、学校の教育活動として参加していないこと」(A府要綱2条6号、8号)の要件を充たしているものと認めることができる状況になかったというべきである。
(ウ) したがって、原告は、A府要綱に基づいて本件A府申請をしたにもかかわらず、A府要綱2条に定める交付対象要件を充たしていたと認めることはできない。
イ 以上に対し、原告は、前記第2の4(4)(原告の主張)アのとおり、原告がした本件A府申請がA府要綱2条に定める交付対象要件を充たすと主張するが、上記アに説示したとおり、当該主張を採用することはできない。
なお、原告は、被告A府の担当者から、Yに関する生徒に対する案内文書等の提出がない場合に本件23年度A府補助金の交付が受けられない旨の注意喚起はなかったと主張するが、このような注意喚起が存在したことは上記認定事実(4)イのとおりであって、これに反する当該主張を採用することはできない。

(2) 4要件が違法・無効である旨の主張等について
ア 原告は、前記第2の4(4)(原告の主張)イ(ア)のとおり、憲法26条、13条、社会権規約19条等の国際人権法、平等原則及び後退的措置の禁止等を挙げて、本件A府補助金の交付を受ける権利、利益を有している旨を主張する。しかし、憲法26条、13条、社会権規約19条等の国際人権基準は具体的な権利を基礎付けるものとはいえず、他の私立学校や各種学校との間に補助金の交付の有無等に差異が生じたとしても、直ちに平等原則に反するものとはいえないというべきであるし、後退的措置の禁止が政治的義務として指摘される点はともかくとしてこれが法的義務となるとは解されない以上、これらにより原告が上記の法的権利を有していると認めることはできない。
もっとも、本件A府不交付により原告が平成23年度A府補助金の交付を受けられないことにより、結果として、原告が運営する各種学校の通学する児童、生徒及びその保護者の学習環境の悪化や経済的負担の増大等の影響が生ずることが懸念されるところではある(証人B'、証人C')。しかしながら、A府要綱による本件A府補助金に係る交付事業は、学校法人への助成という枠組みを前提としている以上、当該学校法人又はこれが運営する学校がA府要綱に定める交付対象要件を充たしていない場合に当該学校法人が本件A府補助金の交付を受けることができなくなることはA府要綱の内容から自明のことというべきであるし、税金等の公金を原資とする本件A府補助金は1条校に準じた教育活動が行われている学校法人に対して交付されるものであることに照らせば、1条校に準じた教育活動を行っている学校あるいは同学校を運営している学校法人であるといえない場合に、本件A府補助金の交付が受けられないとしてもやむを得ないといわざるを得ない。
イ また、原告は、前記第2の4(4)(原告の主張)イ(イ)のとおり、平成24年3月7日付け改正によりA府要綱に付加された4要件が違法・無効であるとして、A府要綱に定めるその余の要件を充たす以上、原告はA府要綱の交付対象要件を充たすと主張する。
しかし、上記(1)のとおり、A府要綱に定める本件A府補助金の交付の法的性質は贈与であって、被告A府は、贈与を受けることができる資格をいかに定めるかについて、教育の振興という行政目的の実現のため一定の裁量を有しているというべきである。そして、被告A府が交付する本件A府補助金は、学校法人が設置する外国人学校においては、1条校に準じた教育活動が行われているから、1条校に準じて助成の措置を行うべき必要があるとの考えからA府要綱を定め、これに基づいて本件A府補助金の交付を行っているのであるのから(上記認定事実(1)ア)、平成24年3月7日付け改正により、このような経緯を明確にするため、概要、(1)「日本の学習指導要領に準じた教育活動を行うこと」(A府要綱2条5号関係)、(2)「財務情報を一般公開すること」(A府要綱2条1号関係)、(3)「特定の政治団体と一線を画すこと」(A府要綱2条6号から8号まで関係)、(4)「特定の政治指導者の肖像画を教室から外すこと」(A府要綱2条9号関係)を交付対象要件として追加して明記したことも、私立学校としての公共性や本件A府補助金の経緯や考え方に沿うものとして、上記裁量の範囲内というべきである。
そして、本件A府不交付はA府要綱2条8号該当性を認めないものであるところ、同号は、上記(3)要件(「特定の政治団体と一線を画すこと」)を具体化したものである。これは、私立学校法36条2項において「理事会は、学校法人の業務を決し、理事の職務の執行を監督する」とされていることから、当該学校の業務に関して理事会において意思決定されていること及び他の団体等による不当な介入がないことを明確にするとともに、各種学校においても、私立学校として「私立学校の健全な発達」を図ることを目的とし、「公共性」が求められていることは否定できないところであって、そこには私立学校にも一定程度の政治的中立性が要求されていると解されるから、この点をも明確化し、加えて、本件A府補助金は、学校法人が設置する外国人学校のうち1条校に準じた教育活動が行われ、1条校に準じて助成の措置を行うべき必要があるものについて助成をするものとして発足し、活用されてきたものである以上(上記認定事実(1)ア)、1条校に準じた教育活動が行われていることが助成の実質的な要件ともいうべきところ、そのような要件を充たすというためには、教育の一定程度の政治的中立性が確保されていることが必要であると解されるから、この点をも明確化するものということができる。そして、A府要綱にこのような要件、条項を付加することは、本件A府補助金の経緯や考え方を要件として明確化し、もって本件A府補助金に係る制度・運用を規律しようとするものといえ(乙26、27、34、証人T、証人R)、私立学校法の上記定めやA府要綱及び本件A府補助金の経緯等に照らし相応の合理性があるということができる。
そして、上記(3)の要件(「特定の政治団体と一線を画すこと」)の現実の運用として、A府要綱2条6号は、同条8号にいう「特定の政治団体」について「公安調査庁が公表する直近の「内外情勢の回顧と展望」において調査等の対象となっている団体」(ただし、政治資金規正法3条2項に規定する政党を除く。)と定義している。公安調査庁は、破壊活動防止法(昭和27年法律第240号)の規定による破壊的団体の規制に関する調査及び処分の請求並びに無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成11年法律第147号)の規定による無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する調査、処分の請求及び規制措置を行い、公共の安全の確保を図ることを任務とし、国内諸集団等に対する情報の収集・分析等を行う国家機関であって(公安調査庁設置法3条、公安調査庁組織規則参照)、これが調査等の対象として公表している団体が主催する行事に、学校の教育活動として参加している学校法人(A府要綱2条8号参照)に対し、税金等の公金を原資とする本件A府補助金を交付することを許容するか否かは、正に当該補助金制度を設計・運用する被告A府の裁量に属する事柄というべきであるから、このような要件を設けることにその裁量の範囲に逸脱又は濫用があるとはいえない。