大阪朝鮮学園補助金裁判(10)

5 認定事実
本案の争点を判断するに当たり,前記前提事実のほか各項掲記の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件A府補助金及び本件A市補助金
ア 被告A府においては,平成3年度から「A府私立専修学校専門課程等振興補助金交付要綱」に基づいて私立各種学校として認可している外国人学校に助成をしてきており,平成4年5月にはA府国際化推進基本方針において「内外の人々に対して差別のない開かれた豊かなこころの人々に支えられた社会の実現を図る」という方向性が示されたことを踏まえ,平成5年3月19日,外国人学校は,設置者が学校法人であり,またその教育活動が我が国社会における社会構成員としての教育をも実施しているという事実に着目し,A府内に所在する私立各種学校で,専ら我が国に居住する外国人を対象とする学校のうち,修学者の年齢層が概ね幼稚園,小学校,中学校及び高等学校の修学年齢に相当する学校であって,知事が特に必要と認める学校(外国人学校)について,これを他の各種学校とは区別し,現行の私学助成体系の中に外国人学校助成を新たに位置付けるためにA府要綱を制定し,平成4年度から本件A府補助金外国人学校に交付してきた。そして,被告A府は,同年度から原告に対しても本件A府補助金を交付してきた。(以上につき前提事実(2)ア,甲6,9,11,乙31,32)
イ 被告A市は,昭和62年度から,各種学校における学校教育の目的を達成するために必要な教具・施設の整備,並びに学校の維持運営に対する補助金を交付してきており,平成3年には「外国人を専ら対象とし,義務教育に準ずる教育を実施する各種学校の果たす役割に鑑み,その健全な発達に資する」ことを目的として本件A市補助金を交付することを主な内容とするA市要綱を制定し,これに基づいて平成3年度から本件A市補助金を交付してきた。そして,被告A市による原告に対する助成(補助金の交付)は従前からされていたが,同年度からはA市要綱に基づいて原告に対する本件A市補助金の交付がされるようになった。(以上につき前提事実(3)ア,甲15,16,丙8)
(2) 平成22年度の補助金の交付状況等
ア(ア) 平成22年2月頃,私立高校授業料無償化の施策の一環とされた国就学支援金の交付対象として,BC級学校を対象とするか否か議論がされていたところ,BC級学校が国就学支援金の交付対象予定とされていることを疑問視する論調の新聞報道(「H国がB学園に資金提供」(同月23日付け),「教室にH国指導者の肖像画」(同年3月4日付け),「B学校の統廃合の停止をH国指導者がKに指示」(同日付け),「H国指導者への個人崇拝教育」(同月5日付け),「H国C級学校で使用する「現代B史」の教科書はKが編纂し歴史を改変」(同月11日付け)等。)がされた(乙26)。
(イ) 昭和30年に結成されたKの活動は多方面に及ぶところであるが,その結成当初は,B学校の建設,学校認可手続等を進めるなどしていた。
なお,その指導思想は,昭和42年頃,従前の「社会主義的愛国思想」から主体思想・N主義に移行したとも評されている。(以上につき甲54,71)。
そして,Kは,公安調査庁が取りまとめた「内外情勢の回顧と展望 平成22年(2010年)1月」と題する冊子中において,「H国・K」とする項目の下に取り上げられている。同項目中には,「Kは,B人学校での民族教育を「愛族愛国運動」の生命線と位置付けており,学年に応じた授業や課外活動を通して,H国・Kに貢献し得る人材の育成に取り組んでいる。」,「B人学校では,一律にK傘下事業体「O」が作成した教科書を用いたB語での授業を行っている。」,「Kは,…教職員やD級部4年生以上の生徒をそれぞれKの傘下団体であるPやQに所属させ,折に触れIの「偉大性」を紹介する課外活動を行うなどの思想教育を行っている。」などの記載がある。そして,平成24年1月に取りまとめられた「内外情勢の回顧と展望」においても,Kについての記述がある。(以上につき乙4,証人R)
イ A府知事(当時の府知事はS)は,平成22年3月,B学校への補助の是非をめぐって自らB学校を訪問する意思があることを表明し,同月12日,B学校を視察し,原告関係者と意見交換を行った。その際,A府知事は,ABC級学校において教室正面の黒板の上部にH国指導者の肖像画掲示されていることを確認した上,原告関係者から,スポーツ大会などでKから支援を受けていることや財務諸表の公開はこれから検討を進める状況であるといった説明を受けた。A府知事は,その席で,本件A府補助金やA府授業料支援補助金(国による就学支援と併せて授業料を無償としようとするもの)は被告A府独自の制度であること,貴重な府民の税金を投入する以上,補助対象となる学校については教育活動や学校運営が適切に行われていることが必要であり,この点についての府民の理解が公金投入の前提であるし,これは私立高校や高等専修学校でも同様であることを伝えた上で,本件A府補助金の交付のために,原告関係者に対して,以下の?@から?Cまでの事項を要請した。(以上につき甲121,128,乙26,33,34,証人T)
?@ Kと一線を画すこと。
・Kとの人的・金銭的な関係を絶つ。
・K主催の行事に参加しない。
・生徒が参加するコンクール等は,K主催から保護者等の主催に切り替えること。
?A H国指導者の肖像画を教室から外すこと。
?B 日本の学習指導要領に準じた教育活動を行うこと。
・特に,H国指導者の個人崇拝につながる教科書記述は見直すべき。
?C 学校の財務状況を一般公開する。
ウ 被告A府においては,平成22年,教育学の有識者,日本の私立高等学校校長及びB語の専門家などの4名の委員により構成されるWGを設置し,「A府授業料支援補助金等の検討を行うに当たり,ABC級学校の教育活動や教科書が日本の学習指導要領等に準じているかについての確認を行うとともに,必要な助言や提言を行う」ことを目的とし,同年5月20日から同年9月22日まで,6回にわたるワーキングを実施し,原告が運営する学校の教育活動を調査した。WGは,同日,調査結果として提言を取りまとめた。(以上につき甲20)
提言には,確認結果として,ABC級学校は各種学校(学校教育法134条)であるから,学習指導要領の適用は受けないものの,「学習指導要領に示された教科,特別活動を概ね実施。」,「必履修教科である家庭科が開設されていない。」,「総合的な学習の時間が開設されていない。」,「ホームルーム活動が実施されていない。」,「学習指導要領上の最低必要要件である「74単位」を上回る「90単位」を設定。」,「日本語版の年間授業計画(シラバス)が作成されていない。」が示された(甲20)。
エ 被告A府(私学課)は,平成22年8月,B学校の教育活動や学校運営の問題点を指摘する新聞報道(「政府見解(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」)とも矛盾」(同月5日付け),「K幹部が校長兼任」(同月7日付け),「H国の政治的指導者への忠誠度で教員認定」(同月13日付け),「Kの政治組織に生徒を強制加入」(同月15日付け),「学費納入時に活動費を徴収してKに上納」(同月21日付け))がされたことを受けて,原告に対し,これらについての事実関係や上記イ?@から?Cまでの各項目との関係を明らかにするよう求めた(乙26,証人T)。
オ A府下には,B学校と同様に各種学校に区分され,本件A府補助金の交付対象となっている外国人学校がB学校のほかに2校あるところ,被告A府は,そのうちの1校であるMに対し,平成22年9月30日に学校の教育活動を視察するとともに,同年11月2日に学校運営に関するヒアリングを行い,また,他の1校であるAUに対し,同年9月28日に学校の教育活動を視察し,同年11月5日に学校運営に関するヒアリングを行い,いずれも上記イ?@から?Cまでの各項目を充たしていることを確認した(乙26)。

カ 被告A市は,平成24年3月27日,A市要綱を改正し,同月28日頃に,原告に対し,本件23年度A市補助金を不交付とする旨の決定(本件A市不交付)をし,同月30日,原告に本件A市不交付を通知するとともにA市要綱を交付した(甲19,丙8)。
キ 被告A市は,平成23年度の本件A市補助金について交付申請をしていたMについて,被告A府からA府補助金の交付対象とされる見込みである旨を確認し,同学校がA市要綱に定める交付対象要件を充たしているものとして,同年度の本件A市補助金を交付する旨の決定をした(丙8)。