大阪朝鮮学園補助金裁判(8)

第3 当裁判所の判断
1 原告による追加的併合について
原告は,本件各取消等請求に係る訴訟に行政事件訴訟法19条の追加的併合によりその余の請求に係る訴えを提起しているところ,追加的併合が認められるためには,基本となる取消訴訟が適法であることが必要である。しかしながら,基本となる取消訴訟の適法性の有無が争点として終局判決で判断されるような場合には,併合審理した上,仮に基本となる取消訴訟を不適法却下する際は,併合事件について弁論の併合がされたものとして,実体判断することができると解すべきで,これを不適法却下するのは相当ではない。これに反する被告A市の主張は,採用することができない。
2 争点1(本件A府不交付の処分性)について
(1) 抗告訴訟の対象となる処分について
抗告訴訟の対象となる処分とは,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」であり(行政事件訴訟法3条1項,2項,6項),これは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁判所昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。
(2) 本件A府不交付について
地方公共団体が私人に対して補助金を交付する関係は,地方公共団体が,その優越的地位に基づき公権力を発動して私人の権利自由を制限し又はこれに義務を課するものではなく,本来,資金の給付を求める私人の申込みに対する承諾という性質を有する非権力的な給付行政に属するものであるから,その関係においては,原則として,行政処分は存在しないものというべきである。もっとも,法令等が,一定の政策目的のために,特に一定の者に補助金の交付を受ける権利を与えるとともに,補助金の交付手続により行政庁に当該者の権利の存否を判断させることとした場合や,法令等が補助金の交付手続を定める中で行政庁による不交付決定に対して不服申立手続を設けているような場合などには,例外的に補助金の交付決定に処分性が認められるものと解される。
イ 弁論の全趣旨によれば,本件A府不交付は,私立学校法64条5項により準用される同法59条,私立学校振興助成法16条により準用される同法10条及び地方自治法232条の2に加え,A府交付規則,A府要綱に基づいて行われたと認められる。このうち,地方自治法232条の2には,公益上の必要がある場合という要件のほか要件・効果の定めがない。その趣旨は,どのような者にどのような補助を行うかの判断を,地方公共団体の執行機関等が社会的・地域的事情を総合的に考慮して行う公益上の必要に関する政策的な裁量に委ねたものと解するのが相当であり,一定の者に補助金の交付を受けられる地位を与える趣旨を含むものとは解されない。
また,私立学校法の上記各規定は,地方公共団体が教育の振興上必要があると認める場合に,別に法律で定めるところにより,準学校法人に対して必要な助成をすることができる旨を定め,これを受けた私立学校振興助成法の上記各規定が,地方公共団体準学校法人に対して補助金の支出等を行い得る旨を定めているが,これらの法令にも,どのような準学校法人がどのような事業を行う場合にどの程度の補助金を支出するのか,具体的な要件・効果に関する規定は見当たらない。さらに,上記各法令には,準学校法人に対する補助金の支出等の具体的な手続を定める規定や,これに補助金の交付等の請求権・申請権を認める規定,不交付決定に対して不服申立手続を設ける規定等もなく,そのような規定の制定等を地方公共団体に委任する規定も見当たらない。これらのことを総合すると,私立学校法及び私立学校振興助成法の上記各規定は,地方公共団体準学校法人に対して補助金の支出等ができることを規定したにとどまるものと解するのが相当であって,上記各法令の規定が,準学校法人に対し,補助金の交付を受ける権利や補助金の交付申請権を与える趣旨を含むものと解することはできない。
そして,A府交付規則は,私立学校法私立学校振興助成法及び地方自治法等の委任によらず,また,条例(地方自治法14条)の形式によることなく,補助金の交付の申請,決定等に関する基本的事項を一般的に規定するもので,不交付となった場合の不服申立てについても規定がない。これらの事情に照らせば,A府交付規則及びA府要綱は,A府内部の事務手続を定める趣旨を超えて,対象者に当該補助金の交付を受けることのできる法的権利を認める趣旨を含むものとは解されない。
さらに,他に本件A府不交付に法令等が行政処分としての性質を与えたと解する根拠は見当たらない。
ウ したがって,本件A府不交付は,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえないから,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条1項,2項,6項)に当たるとは認められず,抗告訴訟の対象となる処分に該当しない。
上記に反する原告の主張(前記第2の4(1)(原告の主張))は,採用することができない。
(3) 小括
そして,原告は,行政事件訴訟法3条6項2号及び37条の3所定のいわゆる申請型の義務付けの訴えとして,本件23年度A府補助金の交付の義務付けを求めるところ(請求1(1)ア(イ)),上記のとおり,本件A府不交付は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条1項,2項,6項)に当たるとは認められないから,本件A府不交付と表裏ともいうべき関係にある本件23年度A府補助金を交付する旨の決定についても同様に解されるのであって,抗告訴訟の対象となる処分に該当しない。そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件訴えのうち本件A府取消等請求に係る部分は不適法といわざるを得ない。

3 争点2(本件A市不交付の処分性)について
(1) 本件A市不交付について
ア 上記2(2)アのとおり,地方公共団体が私人に対して補助金を交付する関係においては,原則として行政処分は存在しないというべきであり,法令等が,一定の政策目的のために,特に一定の者に補助金の交付を受ける権利を与えるとともに,補助金の交付手続により行政庁に当該者の権利の存否を判断させることとした場合や,法令等が補助金の交付手続を定める中で行政庁による不交付決定に対して不服申立手続を設けているような場合など例外的に,補助金の交付決定に処分性が認められるものと解される。
イ(ア) 弁論の全趣旨によれば,本件A市不交付は,私立学校法64条5項により準用される同法59条,私立学校振興助成法16条により準用される同法10条及び地方自治法232条の2に加え,A市交付規則,A市要綱に基づいて行われたと認められる。このうち,上記2(2)イのとおり,地方自治法232条の2,私立学校法及び私立学校振興助成法の上記各規定は,地方公共団体準学校法人に対して補助金の支出等ができることを規定したにとどまるものと解するのが相当であって,上記各法令の規定が,準学校法人に対し,補助金の交付を受ける権利や補助金の交付申請権を与える趣旨を含むものと解することはできない。
そして,A市交付規則は,私立学校法私立学校振興助成法及び地方自治法等の委任によらず,また,条例(地方自治法14条)の形式によることなく,被告A市における補助金の交付の申請,決定等に関する基本的事項を一般的に規定するもので,不交付となった場合の不服申立てについても規定がない。これらの事情に照らせば,A市交付規則及びA市要綱は,A市内部の事務手続を定める趣旨を超えて,対象者に当該補助金の交付を受けることのできる法的権利を認める趣旨を含むものとは解されない。
さらに,他に本件A市不交付に法令等が行政処分としての性質を与えたと解する根拠は見当たらない。
(イ) 以上に対し,原告は,本件A市補助金が学校法人援助の手続に関する条例に基づいている,あるいは,被告A市においてA市補助金等チェックシートに本件A市補助金の根拠として「私立学校法,私学振興助成法」が明記されているなどと主張する。しかし,同条例は昭和27年4月1日から施行されたもので,その1条において「私立学校法…59条第1項の規定」という現行の私立学校法59条の条項とは整合しない表記が用いられ,申請書に添付する書類も同条例において「予算書(前年度及び当該年度のもの)」が求められるのに対し,A市要綱5項では「予算書(当該年度のもの)」などとされ(甲15,18,50,丙6),A市要綱にも同条例との関係に言及した記載がないことに照らせば,A市要綱が同条例を根拠とするものでないことは明らかというべきである。また,A市補助金等チェックシートは,その記載欄に照らせば,補助金等の必要性や効果について,被告A市及びA市民らが検証,確認等をするために作成されたものにすぎず(甲48,弁論の全趣旨),その記載をもって当該補助金等の法令上の根拠を裏付けることはできないというべきである。
ウ したがって,本件A市不交付は,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえないから,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条1項,2項,6項)に当たるとは認められず,抗告訴訟の対象となる処分に該当しない。
上記に反する原告の主張(前記第2の4(2)(原告の主張))は,採用することができない。
(2) 小括
そして,原告は,行政事件訴訟法3条6項2号及び37条の3所定のいわゆる申請型の義務付けの訴えとして,本件23年度A市補助金の交付の義務付けを求めるところ(請求2(1)ア(イ)),上記のとおり,本件A市不交付は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条1項,2項,6項)に当たるとは認められないから,本件A市不交付と表裏の関係ともいうべき本件23年度A市補助金を交付する旨の決定についても同様に解されるのであって,抗告訴訟の対象となる処分に該当しない。そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件訴えのうち本件A市取消等請求に係る部分は不適法といわざるを得ない。