大阪朝鮮学園補助金裁判(7)

(10) 争点10(本件A市不交付における手続的違法の有無)について
(原告の主張)
以下の事情に照らせば,本件A市不交付は,その手続経過にも違法があるから,違法なものとして取り消されるべきものである。
ア 被告A市は,申請から60日以内に結論を出す旨をA市要綱8項に定めていながら,平成23年9月9日付け(12日受付)でされた本件A市申請を放置しただけでなく,結論を出す直前にA市要綱を平成24年3月27日付けで改正し,遡及適用を行って本件A市不交付をした。同改正前のA市要綱によれば,原告には本件23年度A市補助金が交付されていたはずである。そして,同改正の内容も,前年度までは,長年,被告A市が独自に判断を行っていたものを,突然,A府に倣う旨の要件を付加したものであって,同改正の狙いは,政治的な理由であり,かつ,原告がした本件A市申請を却下することにあったことは明らかであるから,原告を狙い撃ちにしたものであることも明らかである。
このような経緯は,被告A市の行政手続条例にも違反している。
イ また,被告A市は,平成24年3月27日にA市要綱を改正し新要件を付加するなどしているが,これに先立つ同月21日,被告A市の担当者は原告に対して,本件A市申請が不交付となる見込みであることを伝えている。これは,被告A市が,A市要綱の改正に先立ち,当時は存在しなかった新要件を適用して本件A市不交付をしたものと評価できるから,本件A市不交付は,A市要綱に基づいてされたものとはいえない。
(被告A市の主張)
原告は,本件A市不交付が,本件A市申請に対しA市要綱8項に定める「申請を受理してから60日以内」に行われなかったとして,また,平成27年3月27日付け改正前に,同改正に基づいて付加された要件に基づいてされているとして,A市要綱に基づかないでされたものであって,手続違反があると主張する。
しかし,A市要綱は,本件A市補助金の交付についての内部的な細則を定めたものにすぎず,法的効果を有するものではない。本件A市補助金の交付決定の通知を「申請を受理してから60日以内」としているのは,あくまで標準的な処理の期間を内部的に定めたものにすぎず,これに反した
としても違法の問題は生じない(行政処分を前提とする申請ではないから,行政手続条例上の「申請」には当たらない。)。
また,被告A市は,本件A市申請があった後,被告A府の動向を注視する必要があったことから60日を経過したものであって,いたずらに60日を経過したものではない。被告A市においては,原告の監督官庁都道府県(被告A府)であり,本件A市補助金が本件A府補助金を補完する位
置付けであり,本件A府補助金の交付を当然の前提としたものであったことから,被告A府の動向を踏まえた判断を行ってきたものであって,原告に対しても,被告A市の担当者からその旨の説明を度々行っている。そして,本件A市不交付までの期間についても,本件A府不交付が平成24年3月29日であり,それまで,本件A市補助金の交付の可否についてやむなく判断できなかったにすぎず合理的な期限の範囲内のものと評価することができる。また,そもそも原告がA市要綱に定める申請期限である5月末日を経過した後に本件A市申請をしているのであって,上記期間を遵守する前提を欠いている。
A市要綱は,原告・被告A市間の贈与契約の契約条件を明文化したもの,つまり贈与契約の申込みの誘因であると評価されるべきものである。被告A市が原告からの本件A市申請(契約の申込み)に対し,本件A市不交付つまりは「承諾の拒否」をしたことにより,原告と被告A市との間に贈与契約が成立しなかったものであって,契約成立後に契約条件(交付条件)を変更したものではない。

(11) 争点11(被告A市の承諾義務の有無)について
(原告の主張)
上記(9)(原告の主張)のとおり,原告は,平成24年3月27日改正前のA市要綱2項の交付対象要件を充たしていたし,同改正により付加された新要件は違法・無効であるか,信義則によりこれを適用することができないから,原告は,A市要綱2項の交付対象要件を充たしていた。
本件A市補助金の交付が契約によるものであるとしても,その公益的性格から純然たる私法上の契約とは異なり,行政処分に準じた公平さや上位規範に沿った扱いが要求され,契約自由の原則が制限される。そして,上記(9)(原告の主張)アのとおり,原告には本件A市補助金の交付を受ける権利・利益があることなどの事情に照らせば,A市要綱2項の交付対象要件を充たしていながら被告A市が本件A市補助金の交付を拒否することは許されないというべきである。
したがって,被告A市は,原告に対し,本件A市申請を承諾する旨の意思表示をしなければならない。
(被告A市の主張)
争う。
上記(9)(被告A市の主張)のとおり,原告は,A市要綱2項に定める交付対象要件を充たしていたとは認められないから,被告A市には,本件A市申請を承諾する義務はない。
(12) 争点12(国家賠償法上の違法及び故意過失の有無)について
(原告の主張)
上記(9)(原告の主張)のとおり,A市要綱2項の交付対象要件を充たしているか,信義則上これと同視されるにもかかわらずされた本件A市不交付は違法であるし,上記(10)(原告の主張)のとおり,平成24年3月27日のA市要綱の改正等や本件A市不交付に至るまでには被告A市の手続違反がある。
そうすると,A市長がした本件A市不交付には国家賠償法上の違法があり,故意又は過失も認められる。
(被告A市の主張)
上記(9)及び(10)の各(被告A市の主張)のとおり,本件A市不交付に違法はない。本件A市不交付をしたA市長に国家賠償法上の違法や故意・過失があるとする原告の主張は,否認ないし争う。
(13) 争点13(損害額)について
(原告の主張)
ア 本件A市補助金国賠請求に係る損害
本件A市不交付により,原告には,本件23年度A府補助金相当額2650万円の財産的損害が生じた。
したがって,原告は,被告A府に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,本件23年度A市補助金相当額2650万円の支払を求める。
イ 本件A市風評等国賠請求に係る損害
本件A市不交付が取り消されるなどして本件23年度A市補助金が交付され,又は本件23年度A市補助金相当額の損害賠償金が交付されることにより,本件A市不交付により原告に生じた当該補助金の元金部分に係る損害(2650万円)は・補されるとしても,同元金部分の損害が・補されるまでの遅延損害金に相当する額は・補されるものではない。そうすると,この遅延損害金に相当する額は別途損害として・補されなければならない。
また,本件A市不交付により原告に生じた風評被害等の無形の損害は300万円を下ることはない。そして,訴訟提起のために弁護士費用を要しているところ,その費用は30万円を下らない。
したがって,原告は,被告A市に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,330万円及び2980万円(交付されるべきであった本件23年度A市補助金相当額2650万円に上記330万円を加算した額)に対する平成24年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告A市の主張)
否認ないし争う。