大阪朝鮮学園補助金裁判(2)

3 争点
本件における主要な争点は,以下のとおりである。なお,被告A市は,この他,原告が,被告A市に対する当初の本件A市取消等請求に,各予備的請求を追加的に併合することが法律の要件を欠き許されないと主張する。
(1) 本案前の争点
ア 被告A府関係
本件A府不交付の処分性−本件A府取消等請求(争点1)
イ 被告A市関係
(ア) 本件A市不交付の処分性−本件A市取消等請求(争点2)
(イ) 本件A市確認請求に係る確認の利益の有無−本件A市確認請求(争点3)
(2) 本案の争点
ア 被告A府関係
(ア) 本件A府取消等請求
a A府要綱交付対象要件充足の有無(争点4)
b 本件A府不交付における手続的違法の有無(争点5)
(イ) 本件A府承諾請求
a A府要綱交付対象要件充足の有無(争点4)
b 被告A府の承諾義務の有無(争点6)
(ウ) 本件A府確認請求
A府要綱交付対象要件充足の有無(争点4)
(エ) 本件A府国賠請求
a A府要綱交付対象要件充足の有無(争点4)
国家賠償法上の違法及び故意過失の有無(争点7)
c 損害額(争点8)
イ 被告A市関係
(ア) 本件A市取消等請求
a A市要綱交付対象要件充足の有無(争点9)
b 本件A市不交付における手続的違法の有無(争点10)
(イ) 本件A市承諾請求
a A市要綱交付対象要件充足の有無(争点9)
b 被告A市の承諾義務の有無(争点11)
(ウ) 本件A市確認請求
A市要綱交付対象要件充足の有無(争点9)
(エ) 本件A市国賠請求
a A市要綱交付対象要件充足の有無(争点9)
国家賠償法上の違法及び故意過失の有無(争点12)
c 損害額(争点13)

4 当事者の主張
(1) 争点1(本件A府不交付の処分性)について
(原告の主張)
本件A府補助金は,地方自治法232条の2,教育基本法8条,私立学校法59条,私立学校振興助成法1条,10条,16条等の法令上の根拠を有しており,その上で,被告A府は,実践的な要件や手続をA府要綱として作成し,これに基づいて行政実践を積み重ねてきたものであるから,行政としては,申請に対する応答義務を負う制度として存在していたと評価することができる。このような理解は,被告A府の指針や,国においても承認されて
いる。また,原告に対する被告A府の助成は昭和49年以降途切れることなく続けられてきたから,A府による助成である本件A府補助金が長年にわたり原告の存立を左右する重要な財政基礎になっており,これに対する補助金受領者の信頼は法的保護に値するものといえる以上,原告が被告A府から申請に基づいて本件A府補助金の交付を受けることに権利性が認められることは明らかである。
したがって,被告A府による本件A府補助金を不交付とする旨の決定は,直接国民の権利義務を制限し又はその範囲を確定する行為であって,行政処分に当たる。
(被告A府の主張)
地方公共団体が行う補助金の交付は,一定の要件を充たした申請者に対し,補助金交付の対象となる事業を遂行することを条件として行うものであるが,その本質は,金銭の給付という受益的行為にすぎず,行政庁が優越的地位に基づいて権力的な規制を行うものではないから,法律あるいは条例によって法的規制が加えられ,行政争訟的な手続が保障されているなどの特段の事情のない限り,「行政庁の処分」には当たらず,負担付贈与契約と解すべきものである。
本件A府補助金についても,各年度の予算の範囲内で,A府交付規則及びA府要綱に基づいて交付されるものであるところ,本件A府補助金の交付には,法律あるいは条例による法的規制もなく,補助金の交付に関する行政争訟的な手続も定められていない。そして,補助金が継続して交付されることは補助金受領者の単なる期待にすぎず,補助金交付の継続に対する信頼なるものが,法律上保護された利益として評価される余地は全くない。
したがって,A府要綱に定める本件A府補助金の交付決定は,「行政庁の処分」ではなく,一定の補助事業を行うことを条件に補助金の交付を受けたいとの原告の申込みに対する被告A府の承諾として行われるものであって,その法的性質は私法上の負担付贈与契約にすぎない。

(2) 争点2(本件A市不交付の処分性)について
(原告の主張)
本件A市補助金は,地方自治法232条の2,教育基本法8条,私立学校法59条,私立学校振興助成法1条,10条,16条,学校法人援助の手続に関する条例(甲50)等の法令上の根拠を有している。このことは,被告A市においても,自らA市補助金等チェックシート(甲48)において,本件A市補助金が「私立学校法,私学振興助成法」に根拠を有している旨を明らかにしているところである。
被告A市は,本件A市補助金について,上記の法令を根拠とした上で,実践的な要件や手続をA市要綱として作成し,これに基づいて行政実践が積み重ねられていたのであるから,行政としては,申請に対する応答義務を負う制度として存在していたと評価することができ,これは,被告A市の指針や,国においても承認されている。
また,原告に対する被告A市による助成は昭和62年から途切れることなくされ続けてきたのであって,これが長年にわたり原告の存立を左右する重要な財政基礎になっており,これに対する補助金受領者の信頼は法的保護に値するものである以上,原告が被告A市から申請に基づいて本件A市補助金の交付を受けることに権利性が認められることは明らかである。
したがって,被告A市による本件23年度A市補助金を不交付とする旨の決定(本件A市不交付)は,直接国民の権利義務を制限し又はその範囲を確定する行為であって,行政処分に当たる。
(被告A市の主張)
本件A市補助金は,地方自治法232条の2の「寄附又は補助」としてされたものである。本件A市不交付は,A市要綱に基づいてされたものであるが,A市要綱は,いかなる場合に補助金を交付するかを定めるとともに,A市交付規則を受けて補助金交付の内部手続の細則を定めたにすぎないものというべきであるから,これをもって本件A市補助金の交付・不交付に処分性があるものと解することはできない。本件A市不交付は,実質的には贈与契約の申込みに対する応答の性質を有するものであり,行政処分には当たらない。
原告は,学校法人援助の手続に関する条例が本件A府補助金の根拠の一つであり,被告A市において用いているA市補助金等チェックシートに本件A市補助金の根拠として「私立学校法,私学振興助成法」との記載があることから,本件A市補助金の交付又は不交付に法令上の根拠があると主張する。
しかし,同条例は,昭和50年の私立学校振興助成法の制定とともに私立学校法59条が改正された際,廃止されるべきものであって,A市要綱との関連はない。A市補助金等チェックシートは,被告A市における全ての補助金等を対象として3〜4年ごとに重点的な見直し作業を行う際に当該補助金等の必要性や効果を検証するための評価ツールとして用いられるもので,同シートをホームページ上で公開し,市民が個別補助金等の見直し状況を把握できるようにすることを目的として作成されるものであるから,これにより本件A市補助金の交付の法的性質が決められる関係にない。したがって,本件A市補助金の交付の法的性質が地方自治法232条の2に基づく「寄附又は補助」であることに変わりはない。
(3) 争点3(本件A市確認請求に係る確認の利益の有無)について
(原告の主張)
確認訴訟について,一般には給付訴訟が可能であれば確認の利益がないとされるが,紛争の直接的かつ抜本的な解決のために確認訴訟の形態を採ることが有効かつ適切であれば確認の利益が認められる。本件A市確認請求においても,紛争の直接的かつ抜本的な解決に資するため,確認の利益が肯定される。
(被告A市の主張)
原告がA市長に対して本件A市補助金の交付を受けられる地位にあることの確認を求める訴えについては,原告は,このような地位にあることを前提として,端的に,被告A市に対し,本件A市補助金の交付を求める給付訴訟を提起すべきであるから,確認の訴えを選択することが適切とはいえず,確認の利益がない。

(4) 争点4(A府要綱交付対象要件の充足の有無)について
(原告の主張)
ア(ア) 原告が運営する外国人学校のうち,D・E級学校については,教室及
び職員室からも肖像画を撤去するなどしていた上,Yは,原告の生徒らの祖国が主催する行事であって「特定の政治団体」が主催するものではなく,学校行事でもないから,被告A府がなし崩し的に設けた4要件についても充足していたことが明らかである。
したがって,本件A府不交付は違法であるし,原告に対しては,本件23年度A府補助金が交付されなければならない。
(イ) 被告A府は,本件新聞報道をきっかけとする資料の追加提出要請に原告が応じなかったなどとして本件A府不交付を正当化しようとするが,原告が被告A府の担当者から電話を受けた際にも,「資料提供がない場合には不交付となる可能性がある」などといった注意喚起はなかったし,そもそもYは,祖国が主催する行事であって,「特定の政治団体」によるものでもなく,学校行事でもないから,その資料の提出の必要性は認め難いものであった。そうすると,本件A府不交付は,不当な政治的介入としか考えられず,到底許されるものではない。
仮に被告A府による本件A府補助金を交付するか否かについて,被告A府(A府知事)にある程度の裁量を認めるとしても,本件A府不交付に当たり,子どもの学習権という本来最も重視すべき要素,価値を不当に軽視し,本来考慮に入れるべきでない政治理由を極めて過大に評価し,このことにより判断が左右されたことは明らかであるから,被告A府(A府知事)による本件A府不交付は裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして違法である。
イ 仮にA府要綱2条8号の要件を充たすことが確認できない状況にあったとしても,次のとおり,原告が本件A府補助金の交付を受けることについて権利・利益を有していることに照らせば,平成24年3月7日付け改正によりA府要綱2条に付加された4要件は違法(違憲)・無効であり,原告がその余のA府要綱2条交付対象要件を充たしていることは明らかである。
したがって,原告はA府要綱2条交付対象要件を充たしている。