福岡朝鮮学園補助金差止返還訴訟・控訴審(1)

福岡高等裁判所平成25年(行コ)第11号[教育振興費補助金支出取消等請求控訴事件]
平成25年7月17日 福岡高等裁判所第4民事部判決言渡

主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第 1 本件控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 福岡県知事が学校法人A学園(以下「本件A学園」という。)に対して平成22年3月31日にした800万円の補助金交付決定を取り消す。
3 被控訴人福岡県知事Bは本件A学園に対し678万3000円を請求せよ。
4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

第 2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,福岡県の住民である控訴人ら及びCが,被控訴人福岡県に対し,福岡県知事が平成22年3月31日に本件A学園に対してした教育振興費補助金800万円を支出する決定(以下「本件支出負担行為」という)につき,教育基本法14条1項,憲法89条,拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律(以下「北朝鮮人権侵害対処法」という)2条,3条に違反するとして,地方自治法242条の2第1項2号に基づき,その取消しを求めるとともに,同項4号に基づいて,被控訴人福岡県知事に対し,上記教育 振興費補助金800万円のうち既に返還された121万7000円を除いた678万3000円を本件A学園に返還請求するよう求めた事案である。
原判決は,控訴人ら及びCの請求をいずれも棄却したので,控訴人らがこれを不服として控訴した。

2 本件における前提事実,関係法令の定め,争点及びこれに対する当事者の主張は,後記3のとおり,原判決を補正し,後記4のとおり,
「当審における当事者の主張」を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2,3,4(原判決4頁7行目から同10頁7行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

3 原判決の補正
原判決7頁9行目の「そもそ」から同12行目の「公金を支出することは」までを「本件A学園の教育事業への公金支出は,公教育の趣旨,目的に適合していないし,公の支配に属さない教育事業への公金支出として」と改める。
原判決7頁13行目の「本件支出負担行為」から同14行目の「いて」までを削除する。
原判決7頁20行目の「本件A学園は」から同22行目の「いえず」までを「本件A学園の教育事業は,日本における公教育適合性がないものであるから,かかる教育事業への公金支出は」と改め,
同22行目の「公金」の次に「支出」を加える。
原判決7頁25行目の「仮に」から同8頁1行目の「べきである。」までを削除する。

4 当審における当事者の主張
(控訴人らの主張)
憲法89条後段は,「公の支配に属しない」教育事業への公金支出等を禁止しているが,その趣旨は,教育の名の下に公教育の趣旨,目的に合致しない教育活動に公の財産が支出されたり,利用されたりすることを防ぎ,当該教育事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保されていることにある。 そうすると,憲法89条後段にいう「公の支配」に属するか否かを判断するに当たっては,公の財産が濫費されることを防止できるような公的規制が構築されているか否かという観点のみでなく,当該事業内容が「公の利益に沿わない場合には,これを是正する途」が確保されているか否かという観点が必要である(東京高裁平成2年1月29日判決・高民集43巻1号1頁参照)。

イ 本件A学園の教育事業の実態は,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)を支配するD党から政治上,法律上の支配を受けて,D党の主張する歴史認識及び政治的見解をすべてそのまま生徒に教え込み,生徒がその立場で行動することを強いるものであり,その政治的見解は日本政府に敵対するものであるから,およそ日本における公教育適合性がない。
また,本件支出負担行為の対象とされた個々の事業内容も,運動選手の遠征費用,観劇,夏祭り等の娯楽費用であって,私立学校振興助成法(以下「私学助成法」という。)の目的にそぐわないものである。
本件A学園の教育事業は,学校教育法,私立学校法,私学助成法上の各種規制を受けてはいるものの,これらの規制は本件A学園の教育事業の本質を左右するものではない。本件A学園の教育事業については,公権力による人事,予算等について直接関与がされておらず,これを是正する途が確保されていないから,本件A学園の教育事業は憲法89条後段の「公の支配」に属するとはいうことはできない。
よって,本件支出負担行為は憲法89条後段に違反する。
教育基本法14条2項は,法律に定める学校が,その教育の場で政治的中立性を保持する必要がある旨定めているが,その趣旨は国又は地方公共団体各種学校に公的助成をする場合において,その助成対象とされた私立の各種学校にも及ぶものと解すべきである。
本件A学園は,上記のとおり,日本政府に敵対する政治教育,政治的活動を行っているから,本件A学園への公金支出は教育基本法14条2項に違反する。
本件支出負担行為は,北朝鮮に対する援助となり,北朝鮮が日本国民を拉致したとされるいわゆる拉致問題の解決を遠ざけることになるから,拉致問題を解決するため国及び地方公共団体に対し最大限の努力をするよう義務付けた北朝鮮人権侵害対処法2条,3条にも違反する。

(被控訴人らの反論)
憲法89条後段が公の支配に属しない事業に対する公金支出等を禁止しているのは公費濫用防止のためと解されている。したがって,私立学校の教育事業への公金支出が憲法89条後段に違反するか否かを判断するに当たっては,当該教育事業につき,公の財産が濫費されることを防止できるような公的規制がされているか否かという観点から判断すれば足り,それ以上に支出の対象となる教育事業が公教育の趣旨,目的に適合しているか否かにまで立ち入って検討する必要はない。
本件A学園の教育事業は,学校教育法,私立学校法,私学助成法上の各種規制を受けており,これらの規制により,その教育事業が公の利益に沿わない場合にこれを是正する途が確保され,公の財産が濫費されることを防止できるようになっているから,本件A学園の教育事業は,憲法89条後段の「公の支配」に属するというべきである。
本件A学園は,各種学校であって,学校教育法14条2項の適用を受けないから,本件支出負担行為は同項の理念に反しない。
また,北朝鮮人権侵害対処法2条,3条の定める努力義務の不履行が直ちに違法となるわけではない。