福岡朝鮮学園補助金差止返還訴訟(2)

4 争点
(1)本件支出負担行為の教育基本法14条2項違反の有無
 ア 原告らの主張
  本件朝鮮学園は,特定の政党を支持し,又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしており,このような教育に対する公金支出は,公権力による政治教育に対する加担を意味し,公権力と政治教育との結びつきを禁じた教育基本法14条2項の理念に反する。
 イ 被告らの主張
  本件朝鮮学園の設置する学校は,学校教育法134条1項の「各種学校」に該当し,教育基本法14条2項の適用を受けないのだから,原告らの主張は失当である。

(2)本件支出負担行為の憲法89条後段違反の有無
 ア 原告らの主張
 (ァ)本件支出負担行為は,本件朝鮮学園の教育の実態に照らすと,そもそも憲法89条後段の「教育」事業への公金支出とはいえず,仮に教育事業への公金支出であるとしても,公の支配に属さない教育事業であるから,これに対し公金を支出することは,憲法89条後段に反する。
 (ィ)本件支出負担行為は,「教育」事業への公金支出といえないことについて
  本件朝鮮学園における教育の実態は,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)を支配する朝鮮労働党の主張する歴史認識及び政治的見解をすべてそのまま生徒に教え込み,生徒がその立場で行動することを強いるものであり,その政治的見解は,日本政府に敵対するものである。
 このような教育内容に鑑みれば,本件朝鮮学園は,北朝鮮の政治機関に過ぎず,かかる政治機関への公金支出は,そもそも,「教育」事業への支出とはいえず,教育の美名に隠れた公金の濫用そのものであって,憲法89条後段の禁止するところであるというべきである。
 (ゥ)本件朝鮮学園の教育事業が,公の支配に属しないことについて
 仮に,本件支出負担行為が,教育事業への公金支出であるとしても,以下の点から,本件朝鮮学園の教育事業は,公の支配に属さないというべきである。
  a 本件朝鮮学園の教育事業の目的は,日本に対して敵対的な姿勢を示す北朝鮮及び在日本朝鮮人総聯合会(以下,「朝鮮総連」といい,北朝鮮と併せて「北朝鮮等」という。)に貢献する人材の育成であって,日本国の公の利益に沿うものとは言い難い。
 また,本件朝鮮学園の教育事業の内容は,北朝鮮を支配する朝鮮労働党が主張する日本政府に敵対する内容の歴史的認識及び政治的見解をそのまま生徒に教えるというものであって,日本における公教育に適合しているとはいえない。
 b また,本件朝鮮学園の実態は,北朝鮮直属の政治機関であり,朝鮮総連と事実上一体の政治組織であって,学校運営,教育人事,教育内容等すべてが朝鮮総連の指挿下にある状況である。
 c そして,以上のような状況であるにもかかわらず,法令上,これを是正する途が確保されておらず,本件朝鮮学園の事業が公の支配に属さないことは明らかである。
 d これに対し,被告らは,本件朝鮮学園が,私立学校法,私立学校振興助成法等の教育関係法規によって規制を受けていること,所轄庁である福岡県知事がこれらの権限を行使することで,本件朝鮮学園の事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正し,公の財産が濫費されることを防止しうると主張する。
 しかし,本件朝鮮学園は,「各種学校」に該当し,教育基本法14条2項にいう「法律に定める学校」に該当しないので,政治教育その他政治活動が行われても,それが故意に法令に違反するようなものでない限り,それに対する是正手段が存在しない。
 したがって,本件朝鮮学園が,明らかに公の利益に沿わない教育内容を実施しているにもかかわらず,被告らは,これを是正する手段がないといわざるを得ない。
 e 以上から,本件朝鮮学園の教育事業は,公の支配に属さない以上,本件支出負担行為は,憲法89条後段に違反するものである。
 イ 被告らの主張
  (ア)本件朝鮮学園の教育事業は,憲法89後段にいう「公の支配」に属するものであることは明らかである。
  (イ)そもそも,原告らが問題としているのは,本件朝鮮学園の教育内容が公の利益に沿わない場合における是正手段の有無であるが,憲法89条後段の「公の支配」が及んでいるか否かについては,「公の権力が事業の運営,存立に影響を及ぼすことにより,当該事嚢が公の利益に沿わない場合にはこれを是正する途が確保され,公の財産が濫費されることを防止しうるか否か」によって判断すべきである。
  (ウ)そして,本件朝鮮学園は,関係法令の定めにより,準学校法人として,私立学校法,私立学校振興助成法上の各種規制を受け,さらに,各種学校として,学校教育法上の規制を受けるのだから,福岡県知事は,本件朝鮮学園に対して,各種の監督権限を有しているというべきであって,本件朝鮮学園の教育事業が公の利益に沿わない場合には,これを是正する途を有しているのであり,本件朝鮮学園の教育事業は憲法89条後段の「公の支配」に属する。
 したがって,本件支出負担行為は,憲法89条後段に反さない。
(3)本件支出負担行為の北朝鮮人権侵害対処法2条及び3条違反の有無
 ア原告らの主張
  本件朝鮮学園における歴史教育は,北朝鮮拉致問題を無視したものであって,本件朝鮮学園と北朝鮮の一体性に鑑みれば,本件朝鮮学園に対して補助金を交付する行為は,北朝鮮が行った拉致問題の解決に資さない行為であって,北朝鮮人権侵害対処法が定める国及び地方公共団体拉致問題解決に関する最大限の努力義務に違反するものである。よって,本件支出負担行為は,北朝鮮人権侵害問題対処法2条及び3条に違反する。
 イ 被告らの主張
  被告福岡県は,拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題について,講演会や写真・パネル展の開催などの積極的な啓発に努めている。
 また,北朝鮮人権侵害対処法2条は,泣致問題に関する国の責務を定めたものであって,被告らの責務を定めたものではない。