福岡朝鮮学園補助金差止返還訴訟(1)

福岡地方裁判所 平成23年(行ウ)第25号[教育振興費補助金支出取消等請求事件]
平成25年2月15日 福岡地方裁判所第3民事部判決言渡


  判 決

原告 馬場能久他18名
原告ら訴訟代理人
弁護士 森統一
  同 中島繁
  同 堀孝之
福岡市博多区末公園7番7号

被告 福岡県同代表者知事 小川洋
処分行政庁 福岡県知事
福岡市博多区東公園7番7号
被告 福岡県知事小川洋
被告ら指定代理人 田代晋一
 同 古賀健
 同 中野弘則
 同 松熊康典
 同 大坪則行
 同 岩田睦博
同訴訟代理人弁護士     市丸信敏
同訴訟復代理人弁護士    中山栄治
 同 今泉忠
 同 市丸健太郎
 同 甲斐田靖
 同 林田太郎
 同 福井理絵

 主  文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

            事実及び理由

第1 請求
 1 福岡県知事が学校法人福岡朝鮮学園に対して平成22年3月31日にした800万円の補助金交付決定を取り消す。
 2 被告福岡県知事小川洋は学校法人福岡朝鮮学園に対し678万3000円を請求せよ。

第2 事案の概要等
 1 事案の概要
  本件は,福岡県知事が,学校法人福岡朝鮮学園に対し,平成22年3月31日,教育振興費補助金として800万円の補助金交付決定をしたところ,原告らは,その補助金の交付が教育基本法14条2項,憲法89条,拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する準律(以下「北朝鮮人権侵害対処法」という。)2条及び3条に違反すると主張し,地方自治法242条の2第1項2号に基づき,上記補助金交付決定の取消しを求めるとともに,同項4号に基づき,被告福岡県知事小川洋に対し,同朝鮮学園に対して上記800万円のうち既に返還された額を除いた残額である678万3000円の返還を請求することを求める事案である。
 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実又は各項末尾記載の証拠により認められる事実)
 (1)原告らは,いずれも福岡県の住民である。(争いのない事実)
 (2)学校法人福岡朝鮮学園(以下「本件朝鮮学園」という。)は,私立学校法64条4項の「各種学校の設置のみを目的とする法人」として,昭和39年8月26日,福岡県知事から設立の認可を受け,学校教育法134条1項の「学校教育に類する教育を行う」「各種学校」である九州朝鮮中高級学校,北九州朝鮮初級学校,福岡朝鮮初級学校を設置する学校法人である。(甲1)
 (3)被告福岡県知事は,平成22年3月31日,私立学校法59条,私立学校振興助成法16条,同法10条,福岡県補助金等交付規則4条,福岡県私立外国人学校教育振興費補助金交付要綱に基づき,本件朝鮮学園に対し福岡県私立外国人学校教育振興費補助金として800万円を支出する決定(以下「本件支出負担行為」という。)をし,同年5月26日,同額を支出した。(争いのない事実,乙1,2)

 (4)原告らは,平成23年2月28日,福岡県監査委員に対し,地方自治法242条1項に基づき,本件支出負担行為の取消し及び本件朝鮮学園に800万円の返還請求をすることを求める措置請求をしたところ,福岡県監査委員は,同年4月25日,原告らの上記請求を棄却した。(争いのない事実)
 (5)原告らは,平成23年5月20日,本件訴訟を福岡地方裁判所に対して提起した。(顕著な事実)

 3 関係法令の定め
 (1)学校教育法上,学校とは,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,大学及び高等専門学校とされている(同法1条)。
 また,同法1条に掲げるもの以外のもので,学校教育に類する教育を行うものは,各種学校とされている(同法134条1項)。
 同法上,各種学校については,学校の設置廃止,設置者の変更等について都道府県知事の許可が必要とされ(同法134条2項,4条1項前段),また,校長及び教員の配置及び欠格事由が規定され(同法134条2項,7条,9条),さらに,法令の規定に故意に違反したとき,法令の規定により都道府県知事がした命令に違反したとき,又は,6か月以上授業を行わなかったときは,都道府県知事は各種学校の閉鎖を命ずることができる(同法134条2項,13条1項)とされている。また,各種学校に必要とされる事項として,同法134条3項に基づく各種学校規程(昭和31年文部省令第31号)において,修業期間,授業時数,施設,設備等が規定されている。
 (2)私立学校法は,専修学校又は各種学校を設置しようとする者は,専修学校又は各種学校の設置のみを目的とする法人(以下「準学校法人」という。)を設立することができる旨定めている(同法64条4項)。
 準学校法人は,学校の設立,寄附行為の変更について所轄庁の認可が必要とされ(同法64条5項,31条,45条),法人役員の定数が法定され,その選任に関して制限が設けられている(同法64条5項,35条,38条)。
 また,準学校法人が,令の規定に違反し,又は法令の規定に基づく所轄庁の処分に違反した場合において,他の方法により目的を達することができない場合には,所轄庁は解散を命ずることができるとされている(同法64条5項,62条)。
 (3)私立学校振興助成法10条は,国又は地方公共団体は,学校法人に対し,補助金を支出し,又は通常の条件よりも有利な条件で,貸付金をし,その他の財産を譲渡し,若しくは貸し付けることができる旨定めており,同条は,準学校法人に準用されている(同法16条)。
 また,同法12条は,所轄庁は,助成を受ける学校法人について,次の各権限を有する旨定めており,同条は,準学校怯人に準用されている(同法16条)。
 ア 助成に関し必要があると認める場合において,当該学校法人からその業務若しくは会計の状況に関し報告を徴し,,又は当該職員に当該学校法人の関係者に対し質問させ,若しくはその帳簿,書類その他の物件を検査させること。
 イ 当該学校法人が,学則に定めた収容定員を著しく超えて入学又は入園させた場合において,その是正を命ずること。
 ウ 当該学校法人の予算が助成の目的に照らして不適当であると認める場合において,その予算について必要な変更をすべき旨を勧告すること。
 エ 当核学校法人の役員が法令の規定,法令の規定に基づく所轄庁の処分又は寄附行為に違反した場合において,当該役員の解職をすべき旨を勧告すること。
 (4)私立学校法及び私立学校振興助成法上,準学校法人の所轄庁は都道府県知事とされている(私立学校法4条4号,私立学校振興助成法2条4項)。
 (5)教育基本法は,法律に定める学校は,特定の政党を支持し,又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない旨定めている(同法14条2項)。