関東大震災・朝鮮人中国人虐殺事件・人権救済申立・勧告(5) 日弁連

第5章 再発防止の重要性

1 以上検討してきたように、軍隊による国の直接的な虐殺行為はもとより、内務省警保局をはじめとする国の機関自らが、朝鮮人が「不逞行為」によって震災の被害を拡大しているとの認識を全国に伝播し、各方面に自警の措置をよびかけ、民衆に殺人・暴行の動機付けをした責任は重大である。
 しかるに国はその責任をあきらかにせず、謝罪もしていない。そればかりか、国として虐殺の実態や原因についての調査もしていない。
 虐殺の規模、深刻さにかんがみると、長期にわたるその不作為の責任は重大であるといわなければならない。
 国のこれら亡くなられた被害者やその遺族に与えた人権侵害行為の責任は、80年の経過により消滅するものではなく、事実を調査し、事件の内容を明らかにし、謝罪すべきである。

2 最近でも在日コリアン、特に朝鮮学校の児童・生徒に対するいやがらせがなされた事実がある。1994年の「北朝鮮核疑惑」の際、あるいは1998年の「テポドン報道」の際に、民族服であるチマ・チョゴリを着ている朝鮮学校の女生徒に対する多数の暴行や脅迫事件が起きたことは記憶に新しい。そして昨年来、朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)による日本人拉致事件を同国政府が認め、拉致事件の実体が明らかにされるにつれて、在日コリアン、特に朝鮮学校の児童・生徒に対する暴行・脅迫、いやがらせや危害の予告等が続いている。例えば、朝鮮学校に通う子どもが、登下校中、駅のホームや電車の中で腕を捕まれる、民族衣装のチョゴリを引っ張られる、「植民地時代に朝鮮人を全員殺しておけばこんなことにはならなかった」「朝鮮に帰れ」などと言われる、すれ違いざまに「拉致」と言われるなどの被害を受けている。あるいは、朝鮮学校のホームページの掲示板への書き込み・手紙・電話などにより、朝鮮学校の子どもに対する危害の予告が行われ、そのために一時的に休校せざるを得なかった例もある(資料第5の2、日弁連会長声明、同緊急アピール)。
 このような出来事を考えれば、予測できない大きな事件や災害が起きたとき、今の日本でも流言飛語などの影響で在日外国人に不当な民族差別と嫌悪感、排斥的感情を引き起こす可能性があることを自戒すべきである。
 事件発生80周年の今こそ、国が事件発生の原因を事実に即して究明すべくただちに調査に着手すること、事件発生にかかわる重大な責任をみとめて謝罪すること、そのことを通じてかかる重大なあやまちを再発させないとの決意を内外に明らかにすべきときである。

 以上の調査た基づき、主文に記載したとおり、
 第1に、国は関東大震災直後の朝鮮人、中国人虐殺に対する虐殺事件に関し、軍隊による虐殺の被害者、遺族、 および虚偽事実の伝達など国の行為に誘発された自警団による虐殺の被害者、遺族に対し、その責任を認めて謝罪すべきである。
 第2に、国は、朝鮮人、中国人虐殺の全貌と真相を調査し、その原因を明らかにすべきである。
 との頭書の勧告に及んだ次第である。
以 上