大阪朝鮮学園補助金裁判(15)

9 争点12(国家賠償法上の違法及び故意過失の有無)について
(1) 検討
ア 上記8のとおり、原告はA市要綱に定める本件A市補助金の交付対象要件を充たしていない以上、本件A市不交付が違法であると認めることはできない。
イ 原告は、前記第2の4(12)(原告の主張)のとおり、本件A市不交付が違法であると主張するが、上記8のとおり、原告はA市要綱に定める本件A市補助金の交付対象要件を充たしておらず、憲法26条,13条、社会権規約19条等の国際人権基準、平等原則及び後退的措置の禁止等によっても本件A市補助金の交付を受ける権利を認めることはできない以上、原告に本件A市補助金の交付を受ける権利や利益を認めることはできないというべきであるから、本件A市不交付によってこれらが侵害されたとはいえない。
また、上記8(2)イのとおり、平成24年3月27日付け改正によりA市要綱に盛り込まれた新要件もこれが違法であると認めるに足りる事情はないし、本件A市不交付においては、本件A市不交付をするに先立ち、被告A市においては被告A府の判断に従う旨を原告担当者に告げていることからすると、原告においても本件A市申請が申請内容どおり許可されるか否かについて楽観視できない状況が早くから生じていたということができ、本件A市不交付も予想し得ないものではなかったというべきである。そして、原告は、本件A市不交付が原告を狙い撃ちにしたものであると主張するが、本件A市申請が交付要件を充たさないとされた新要件そのものが違法なものとは解されない上に、殊更に原告を狙い撃ちして本件A府不交付をしたとまで認めるに足りないというべきである。
加えて、原告は、本件A市不交付がA市要綱8項に定める期間内にされていない、本件A市不交付はA市要綱の改正前に事実上されていたと主張する。しかし、A市要綱は、申請期限を毎年5月末日としているのに対し、本件A市申請はこれに3か月以上遅れてされているのであるから、申請期限に大きく遅れた申請について、A市要綱8項に定める期限内に交付・不交付の決定がされていないことを不当ということはできない。また、被告A市担当者は、A市要綱の改正前に原告に対して本件A市申請が不交付となる見込みであると告げているものの、その時点で既に被告A市による交付は被告A府が交付するか否かに沿ったものとする旨の方針が決められていたのであって、これに従ったものということができるし、実際にこれに従ってA市要綱が改正され、本件A市不交付がされていることに照らせば、これを殊更注意義務に違反したということはできない。
なお、本件A市不交付は行政処分ではなく、A市要綱は被告A市の内部の事務手続を定めるものにすぎない以上、被告A市における行政手続条例に違反する旨の原告の主張は前提を欠いている。
(2) 小括
以上によれば、本件A市不交付に、国家賠償法1条1項の違法があるとは認められない。したがって、本件A市国賠請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第4 結論
よって、本件訴えのうち、本件各取消等請求に係る部分は、不適法であるから却下することとし、原告のその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。


大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官 山 田 明
裁判官 新 宮 智 之
裁判官 坂 本 達 也


(別紙1)
当事者目録
大阪市 a 区 bc 丁目 d 番 e 号
原 告 学 校 法 人 A B 学 園
同 代 表 者 理 事 長 n
原 告 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 o
同 p
同 q
同 r
同 s
同 t
同 u
同 v
同 w
同 x
同 y
同 z
同 a’
同 b’
同 c’
同 d’
同 e’
同 f’
大阪市 f 区 gh2丁目
被 告 A 府
同 代 表 者 知 事 g’
処分行政庁A府教育長h’
被告A府訴訟代理人弁護士 i’
被告A府訴訟復代理人弁護士 j’
同 k’
同 l’
同 m’
被告A府指定代理人n’
同 o’
同 p’
同 q’
大阪市 i 区 jk−l−m
被 告 A 市
同 代 表 者 市 長 r’
被告A市訴訟代理人弁護士 s’
同 t’
同 u’
被告A市指定代理人 v’
同 w’
同 x’
同 y’
同 z’
78

(別紙2)
略語一覧
A府私立外国人学校振興補助金交付要綱 →A府要綱
A府私立外国人学校振興補助金 →本件A府補助金
平成23年度分の本件A府補助金 →本件23年度A府補助金
A市義務教育に準ずる教育を実施する各種学校を設置する学校法人に対する補助金交付要綱 →A市要綱
A市義務教育に準ずる教育を実施する各種学校を設置する学校法人に対する補助金 →本件A市補助金
平成23年度分の本件A市補助金 →本件23年度A市補助金
原告の被告A府に対する本件23年度A府補助金の交付申請 →本件A府申請
原告の被告A市に対する本件23年度A市補助金の交付申請 →本件A市申請
A府知事による本件A府申請を不交付とする旨の決定 →本件A府不交付
A市長による本件A市申請を不交付とする旨の決定 →本件A市不交付
本件A府不交付及び本件A市不交付 →本件各不交付
請求1(1)アに係る請求 →本件A府取消等請求
請求1(1)イに係る請求 →本件A府承諾請求
請求1(1)ウに係る請求 →本件A府確認請求
請求1(1)エに係る請求 →本件A府補助金国賠請求
請求1(2)に係る請求 →本件A府風評等国賠請求
本件A府補助金国賠請求及び本件A府風評等国賠請求 →本件A府国賠請求
請求2(1)アに係る請求 →本件A市取消等請求
請求2(1)イに係る請求 →本件A市承諾請求
請求2(1)ウに係る請求 →本件A市確認請求
請求2(1)エに係る請求 →本件A市補助金国賠請求
請求2(2)に係る請求 →本件A市風評等国賠請求
本件A市補助金国賠請求及び本件A市風評等国賠請求 →本件A市国賠請求
本件A府承諾請求及び本件A市承諾請求 →本件各承諾請求
本件A府確認請求及び本件A市確認請求 →本件各確認請求
本件A府風評等国賠請求及び本件A市風評等国賠請求 →本件各風評等国賠請求
H国 →H国
K →K
平成24年3月16日、一部日刊紙の朝刊に、「B学校生 G氏に忠誠」と題し、「全国のB学校から選抜された児童・生徒約100人が1〜2月にH国を訪れた際、故Iと新指導者、G氏に忠誠を誓う歌劇を披露していた」とする記事が掲載されたこと →本件新聞報道
H国において平成24年1月〜2月に開催された歌劇公演であって、全国のB学校から選抜された児童・生徒約100人が参加したもの(本件新聞報道に係る歌劇公演) →Y
「B学校に対する補助金支給にかかる要件」と題する書面 →本件メモ
補助金等見直しチェックシート(甲48) →A市補助金等チェックシート
人権に関する世界宣言 →世界人権宣言
経済的、社会的及び文化的権利に関する国際条約 →社会権規約
市民的及び行政的権利に関する国際規約 →自由権規約
児童の権利に関する条約 →子どもの権利条約
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約 →人種差別撤廃条約
学校法人Mが設置するAM →M
平成24年3月7日付け改正によりA府要綱2条に付加された要件 →4要件
私立学校法の一部を改正する法律等の施行について(通知)」(平成16年7月23日付け16文科高第305号。乙10) →文部科学省通知
市民的及び行政的権利に関する国際規約 →自由権規約
平成24年3月27日付け改正によりA市要綱2項に付加された要件 →新要件
R →R
T →T
ABC級学校の教育活動の確認ワーキング →WG
ABC級学校の教育活動に関する提言 →提言
A府府民文化部私学・大学課 →私学課
U →U
W →W
Z →Z
学校教育法1条に定める幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校
→1条校
文部科学大臣都道府県の教育委員会及び都道府県知事
文部科学大臣
専修学校又は各種学校の設置のみを目的とする法人(私立学校法64条4項) →準学校法人
A府補助金交付規則 →A府交付規則
学校法人会計処理基準(昭和46年文部省令第18号) →会計基準
公安調査庁が公表する直近の「内外情勢の回顧と展望」において調査等の対象となっている団体。ただし、政治資金規正法(昭和23年法律第194号)3条2項に規定する政党を除く。 →特定の政治団体
特定の人間の外観を表現した絵画や写真等 →政治指導者の肖像画
A市補助金等交付規則 →A市交付規則
法令、条例及び規則 →法令等