大阪朝鮮学園補助金裁判(4)

(被告A府の主張)
ア 本件A府不交付について
地方公共団体が、本件A府補助金を交付するかどうかを決定するに当たっては、合理的な裁量の範囲が認められるべきであるところ、被告A府がA府交付規則及びA府要綱を定め、これらに従って本件A府補助金の交付の可否を判断し、交付対象要件を充たさなかったことから本件A府不交付をしているのであって、本件A府不交付の判断をしたことが、裁量権の逸脱ないし濫用と評価される余地はない。
しかるところ、原告は、被告A府から、本件新聞報道をきっかけとして本件新聞報道に記載された行事への参加に関する関係書類を提出するよう求められたにもかかわらず、平成24年3月18日、口頭で本件新聞報道に係る行事への参加は補助金の交付対象要件に反するものとは認識していないが、上記行事への参加に関する関係書類を提出することはできない旨の回答をしたにとどまり、これを明確にする資料の提出をしなかった。そのため、被告A府においては、原告がA府要綱2条8号の「特定の政治団体が主催する行事に、学校の教育活動として参加していないこと」という要件を充たすことにつき確証を得ることができず、原告がA府要綱2条所定の交付対象要件を充たしているとの判断ができなかったため、本件A府不交付をしたにすぎない。
したがって、本件A府不交付は、原告がした本件A府申請がA府要綱2条交付対象要件を充たさなかったことによるものである。もとより政治的介入等として批判されるものでもない。
イ A府要綱2条交付対象要件充足の必要性について
A府においては、学校法人が設置する外国人学校では、1条校に準じた教育活動が行われており、1条校に準じて助成の措置を行うべき必要があるとの考えから、A府要綱を定めて外国人学校を設置する学校法人に対する助成の措置(本件A府補助金)を行うこととしている。そして、本件A府補助金の交付は、A府交付規則及びA府要綱に基づいて行われるところ、補助金の交付対象となる学校法人又はその設置する外国人学校は、A府要綱2条所定の交付対象要件の全てを充たすものでなければならない。
A府要綱2条所定の交付対象要件は平成24年3月7日付けで改正されているところ、同改正において付加された4要件の基本的な考え方は、次のとおりであって、いずれも合理的なものであり、A府要綱に4要件を内容とする改正をすることに何ら違法性はない。
(ア) 「日本の学習指導要領に準じた教育活動を行うこと」(A府要綱2条5号関係)
各種学校については、全国的には、私学助成がほとんど行われていないが、被告A府における本件A府補助金は、上記のとおり、外国人学校は、学校の設置主体が学校法人であって、私立学校法の適用の下に公共性が一定程度担保されるとともに、1条校に準じた教育が行われている点において、他の各種学校とは教育の実態が異なることに着目し、1条校と同様に助成の措置を行うこととしてされたものである。
このように、本件A府補助金は、私立外国人学校が、学習指導要領に沿った1条校に準じた教育を行っているという実態に鑑みて助成の措置を行うのであるから、この点を交付対象要件として明確にするため、これを4要件として追加することとしたものである。
(イ) 「財務情報を一般公開すること」(A府要綱2条1号関係)
学校教育法134条に定める各種学校においても、「保護者及び地域住民その他の関係者の理解を深めるとともに、これらの者との連携及び協力の推進に資するため、教育活動その他の学校運営の状況に関する情報を積極的に提供する」とされ(同法43条等)、また、学校法人は、財産目録、貸借対象表、収支計算書及び事業報告書並びに監査報告書の備置き等を求められており(私立学校法47条1項、2項)、文部科学省通知(乙10)が発出され、「学校法人が公共性の高い法人として説明責任を果たす」必要があり)「法律によりすべての学校法人に共通に義務付けるべき最低限の内容」として積極的な財務情報の公開を促している。そこで、被告A府においても、公益性の求められる補助金の交付を受ける学校法人に対して、財務情報の積極的な公開を求めることとしてA府要綱2条1号を追加したのであって、決して原告を狙い撃ちしたものではない。
(ウ) 「特定の政治団体と一線を画すこと」(A府要綱2条6号から8号まで関係)
私立学校法36条2項において「理事会は、学校法人の業務を決し、理事の職務の執行を監督する」とされていることから、当該学校の業務に関して理事会において意思決定がされていることを明確にするため、本件A府補助金の交付対象要件に追加したものである。また、各種学校私立学校法の目的としての「私立学校の健全な発達」を図ることを目的としているから、各種学校である原告についても「公共性」は求められているのであって、この「公共性」には、私立学校の政治的中立性も当然に含まれる。
これに対し、原告は、原告のような1条校に当たらない各種学校には教育基本法14条2項が適用されないから、「政治的中立性」を要件とすることはできないと主張するが、各種学校においても政治的中立性が求められることは上記のとおりであるし、本件A府補助金は、学校法人が設置する外国人学校のうち1条校に準じた教育活動が行われ、1条校に準じて助成の措置を行うべき必要があるものについて助成を行う制度であって、1条校に準じた教育活動が行われているといえるためには、教育の政治的中立性が確保されていることが必要である。なお、被告A府は、本件A府補助金の交付を受けない外国人学校に対してまで、1条校に求められるような政治的中立性を求めるものではない。
(エ) 「特定の政治指導者の肖像画を教室から外すこと」(A府要綱2条9号関係)
教育基本法14条2項で求められる政治的中立性を確保するという観点から、交付対象要件に追加することとしたものである。
私立学校においては、その自主性から創始者肖像画銅像掲示されている例もあり、教育目的で設置されているものと解される。しかし、公共性と政治的中立性が求められる学校法人においては、思想教育を行うなど政治的利用をすることは問題であり、とりわけ本件A府補助金を受ける学校法人としては一層の公益性が求められているというべきであるからふさわしいものではない。このような見地から、本件A府補助金の交付を受ける各種学校の政治的中立性の確保を求めるものである。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は、憲法26条、13条、国際人権法(世界人権宣言26条、社会権規約2条、13条、14条、自由権規約26条、子どもの権利条約2条、28条、人種差別撤廃条約5条等)を挙げて、原告が本件A府補助金の交付を受ける権利を有していると主張する。しかし、これらの規定によっても、原告の被告A府に対する本件A府補助金の交付請求権を具体的に生じさせるものではない。むしろ、本件A府補助金を始めとする補助金について、その交付を具体的に義務付ける規定はない以上、地方公共団体が、私立学校や各種学校に対して補助金を交付するかどうかは、当該地方公共団体の合理的裁量に委ねられていると解すべきである。
したがって、原告に本件A府不交付をしたことが、直ちに原告の法律上の権利や利益を侵害することにはならない。
4要件は政治的理由に基づいて付加されたものではないから、政治的理由によって原告のみを念頭に置いて4要件を付加して本件A府不交付をしたものでもなく、原告の権利を違法、不当に侵害するものでもない。
(イ) 原告は、民族教育や私立学校の自由を根拠として、補助金の交付請求権があると主張する。しかし、これらによっても原告の被告A府に対する本件A府補助金の交付請求権を具体的に生じさせるものではない。
原告の学校は、1条校ではなく各種学校であるところ、一般に、各種学校は、学校法人でなくとも設立することができ(学校教育法134条)、修業期間や授業時間、教員の資格等において、1条校と比べて緩やかな規制となっていることから、1条校と比較すると各種学校に対して助成する必要は低い。もっとも、被告A府においては、各種学校の中にあって、学校法人が設置する外国人学校については1条校に準じた教育活動が行われてきたことから、一定の要件の下に助成を行ってきたし、外国人学校の中には、1条校の要件を充たし、1条校として認可されているものもある。そうすると、外国人に対する普通教育を行う学校であるからといって、当該外国人学校に対して必然的に1条校と同様に助成がされるべきことにはならないし、このような学校に助成をしなかったとしても、私立学校の自由を侵害したことにはならない。
(ウ) 原告は、本件A府不交付が、A府内の私立学校と原告との間で、また、A府内の各種学校と原告との間で不平等を発生させているとして、平等原則に反すると主張する。しかし、私立学校に対する経常費補助金と原告に対する本件A府補助金の交付額の内容や額に差があるとしても、このことは、本件A府不交付に関わるものとはいえないから、本件A府不交付の違法事由足り得ない。また、4要件は、本件A府補助金の交付対象となる外国人学校に共通する要件として設けたものであり、原告のみを対象として設けたものではない。被告A府が原告に本件A府不交付を行ったのは、原告が4要件のうち1要件(A府要綱2条8号)を充足しなかったことによるものである。
(エ) 原告は、後退的措置の禁止を理由に本件23年度A府補助金の交付請求権があると主張する。しかし、後退的措置の禁止をいうとされる社会権規約13条1項は、締約国において、全ての者に教育に関する権利が、国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し、締約国がこの権利の実現に向けて積極的に政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって、個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない。このことは、同規約2条1項が、締約国において「立法措置その他の全ての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成する」ことを求めていることからも明らかである。
加えて、法令上、地方公共団体が私立学校や各種学校に対して補助金を交付することが義務付けられていないことは上記(ア)のとおりであり、被告A府が本件23年度A府補助金の交付に当たって4要件を設けたことが、目的及び手段において正当であることは上記イのとおりである。
したがって、本件A府不交付が後退的措置の禁止原則に反する旨をいう原告の主張は失当である。
(オ) 原告は、本件A府不交付は、子どもの学習権を不当に軽視し、本来考慮に入れるべきではない政治的理由を極めて過大に評価した結果によるものであるから、裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあると主張する。しかし、本件A府不交付はA府要綱に従ってされたものであり、上記イのとおり、4要件は、法令の趣旨を踏まえ、これに適合することを目的として設けられたものであり、政治的理由に基づいて設けられたものではない。
(カ) 上記(ア)から(オ)までのとおり、原告の本件23年度A府補助金の交付を受ける権利が保障されるものでもないし、4要件が違法、無効とされるものでもない。